ケベック・シャルルボアしあわせキュイジーヌの旅

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おいしすぎる島(1)

シャルルボアというエリアには、恵み豊かな大地だけではなく、恵みにすべてが包まれた島がある。セントローセンス川に浮かぶ「クードル島(Isle-aux-Coudres)」という小さな島だ。

ベ・サン・ポールからフェリーであっと言う間。僕がまずそこで訪れたのは、「シードリエ・エ・ヴェルジェール・ペドノー(Cidrerie et Vergers Pedneault)」というリンゴ生産者だ。

リンゴから作るアルコール飲料「シードル」をはじめ、いろいろな果物を使った酒やジュース、ジャムなどを作っている。

秋を迎え、収穫されたリンゴが箱に詰められて山積みになっていた。セントローレンス川の濃い青と、空の薄い青をバックに、赤い小ぶりのリンゴが映えている。

ここでは26種類のリンゴ、5種類のプラム、2種類のチェリー、4種類のナシを栽培しているんだそうだ。だからシードルにプラムのジュースを混ぜたり、といった方法で実にたくさんの種類の商品を生み出すことができる。

中でも、「わたしのお父さんの夢」というチャーミングな名前の「アイス・シードル」が看板商品。カナダ国内で何度も賞を獲得しているそうだ。

「アイス・シードル」というのは、枝に付いたままのリンゴの実を収穫せず、冬の外気の中でそのまま凍らせてから作る「シードル」。

カナダではオンタリオの「アイス・ワイン」が有名だけれど、あれはやはり実ったブドウをそのまま凍らせて作る高級ワインだ。「アイス・ワイン」のリンゴ版、と言えばいいんだろうか。どちらもたくさんのリンゴやブドウを必要とするので少々、値が張ることになる。

「わたしのお父さんの夢」は4種類のリンゴを混ぜて作る。だけど教えてもらえたのはそこまでで、混ぜる割合などは「企業秘密」なんだそうだ。

ちなみに、この農園では「マッキントッシュ」という種類のリンゴをたくさんつくっていて、「わたしのお父さんの夢」に使う4種類のリンゴのうちの1つも「マッキントッシュ」。

アップル社のコンピュータ「マッキントッシュ」もこの「マッキントッシュ」から名付けられたんだ。

ちなみに「マッキントッシュ」は、カナダ・オンタリオの農夫、マッキントッシュさんが、自生するリンゴの中から発見して栽培をはじめたカナダ原産の酸味のあるリンゴだ。ケベックでもたくさん栽培されている。

農園の裏手の工場では、洋ナシを小さく砕いてジュースを絞り出す作業が行われていた。機械の音がものすごく大きいので、ばあちゃんがヘッドホンをして作業に当たっていた。次々と目の前を通り過ぎる洋ナシを前に、傷んだ部分などを素早くナイフで取り除いていた。ちょっと話しかけにくいよね。

話は少々、脱線するけれど、シャルルボアに限らずケベックでは各地でおいしいシードルが作られている。

今回、シャルルボアに来る前に訪れた、同じケベックでも西の方、「イースタン・タプンシップス」というエリアでもシードルを作っているリンゴ農家に出会うことができた。

「レ・ヴェルジェール・ドゥ・ラ・コリン(Les Vergers de la Colline)」というリンゴ園。僕を案内してくれたここの「若だんな」がちょっとトム・クルーズ似で、アイス・シードルも最高においしかった。

撮影のため、「グラスに注いでみせて」とお願いしたら、「カメラを見ながら継ぐのは難しいよ」と笑顔で頑張ってくれた。なんていい人なんだろう。

「いやいや目線は要らないのでグラスを見て」と安心てもらってから撮った写真がこれ。

リンゴ園を案内してもらっている最中に、「トム・クルーズ・父」も登場。いっしょに写真を撮りましょうよ、と言うと、急いでりんごをキュキュキュっと磨いてから笑顔で応じてくれた。なんていい人たちなんだろう。

それにしても親子ってのは、醸し出す雰囲気が似ているもんで、いい人の息子はいい人になるんだなあって勝手に関心させられてしまった。

ここはシードルも素晴らしいけれど、アップル・パイが最高なんだ。取材させてもらっている最中にも、次々と地元の人がホールでアップル・パイを買っていった。

店内は食事やお茶を飲めるスペースもあって、ここで「トム・クルーズ・息子」が人気のアップル・パイとアイス・シードルをふるまってくれた。

アップル・パイはけっこう甘くて、それでいて中のリンゴは酸味があって、かつシャキシャキ感も残していて、本当にいいバランスだ。

それにしてもパイが大きい。もうお腹がいっぱいだよ。そう思って隣を見たら、「トム・クルーズ・息子」が僕の隣で一回り小さなアップル・パイを食べていた。

「トム・クルーズ・息子」よ、善意でなのか、撮影用にと思ったのか定かではないけれど、キミ、いつもよりでっかく切ったでしょ。ありがとう。

あ、脱線していたらたくさん書きすぎてしまった。次のページでも引き続き「おいしすぎる島」を紹介したい。

ケベック・シャルルボアしあわせキュイジーヌの旅
  1. 「しあわせ」いっぱいの旅が始まる
  2. 列車はあの滝から出発した
  3. 「しあわせ」なチーズの王国
  4. 可愛いけれど、おいしそう
  5. 緑色のケチャップ
  6. 「シルク・ド・ソレイユ」が舞い降りた
  7. 再び「ワンダケ」へ
  8. 「創始者」がいた店
  9. ハンク鈴木さんに出会った
  10. おいしすぎる島(1)
  11. おいしすぎる島(2)
  12. 冬の誘惑
  13. 続・再び「ワンダケ」へ
  14. 「しあわせ」すぎる夕食
  15. 「しあわせ」な人たちが暮らす場所

著者プロフィール

平間 俊行 (ひらま としゆき)

報道機関で政治・選挙報道に携わる一方、地方勤務時代には地元の祭りなど歴史や文化に触れる取材に力を入れる。現在は編集部門を離れ、別分野の事業を担当しながら度々カナダを訪れ、カナダの新しい魅力を伝え続けている。