ケベック・シャルルボアしあわせキュイジーヌの旅

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冬の誘惑

シルク・ド・ソレイユの創始者の1人、ダニエル・ゴルティエ氏が手がけた、駅と直結した素敵なホテルがあるベ・サン・ポールだけでなく、シャルルボアにはもう1つの拠点となる場所がある。それがラ・マルベ(La Malbaie)という街だ。

ここに来たら絶対に外せないのが、ル・マシフ鉄道の乗客においしい食事を提供しているホテル「フェアモント・マノア・リシュルー(Fairmont Le Manoir Richelieu)」。なんだか片仮名ばかりになっちゃったけど。

ル・マシフ鉄道で出てくる料理があれだけおいしいんだから、「本家はさぞや」と思うのは当然。そして、やはり当然のことながら、どれもこれも最高の料理だった。

牛肉は、牛肉らしい肉、と言って理解してもらえるだろうか。日本ではよく「サシ」がいっぱい入っていて、テレビでレポーターが「口に入れたとたんに溶けてなくなっちゃった」なんて「食レポ」をしているのをしょっちゅう見かけると思う。

だけど、ああいう肉じゃあない。しっかりと噛み締めてこそ肉の旨みが存分に味わえる、肉らしい肉だ。

口の中で溶けてなくなる肉ももちろんいいけれど、ナイフを入れた時の適度な反発や噛み締めた時の食感、そしてジワジワと口の中で広がってくる旨みが肉らしくて大好きだ。

そして、僕が特に気に入ったのは、この「ハリバット」のひと皿。巨大なオヒョウがこんなに繊細な味わいだとは想像もしなかった。

ナイフを入れる時はホロリと身と身が離れ、それでいて口の中では柔らかすぎず固すぎず、いい感じの弾力が舌を楽しませてくれる。

「フェアモント・マノア・リシュルー」では、ル・マシフ鉄道の車内で名前を聞いた、このホテルの料理長、パトリック・ターコット氏が僕を迎えてくれた。おお~、実物の有名シェフが目の前にいる。

入っちゃって大丈夫かな、と思いつつも、パトリック氏のご好意で厨房の中に入らせてもらった。

巨大な鍋で作られるフランス料理の基本の出汁、「フォン・ド・ボー」。鍋は2つあって、一番鍋、二番鍋みたいに灰汁を取り除きながら完成に近づけていくんだそうだ。

厨房の中では数え切れないぐらいたくさん、グリルされたサーモンが出番を待っていた。サーモンがいい色だし、付け合せの野菜もゴロっとしていておいしそうだ。

パトリック氏はホテルの料理人の中でもトップだけに使用が許される料理長室も見せてくれた。

ホテルの味を守ってきた歴代の料理長だけが使える部屋。大きな風格あるデスクに10人以上座れそうな大きなテーブルがあり、ここで毎日パトリック氏を中心に、お客の舌を楽しませるための「戦略」が練られているという。

あ、言い忘れた。メイン料理もよかったけれど、デザートも最高でした。どれもこれもおいしかった、ありがとう。

「フェアモント・マノア・リシュルー」は、セントローレンス川を見下ろす高台の上に建つお城のようなホテル。

今はフェアモントのホテルだけれど、もともとはリシュリルー&オンタリオ・ナビゲーション(Richelieu & Ontario Navigation Company) という船舶会社が作ったホテルだったんだそうだ。ここはカナダ各地やアメリカからのお客が船でやってくるホテルだった、ということなんだろう。

だからホテルのマークは今も、船舶会社のホテルだった時と同じように、船の碇をモチーフとしたデザインだ。

そして、建物のいろいろなところに、このマークの中心部にある山形の3本線があしらわれている。だから、「フェアモント・マノア・リシュルー」に行った時にはぜひ、キョロキョロしながら3本線を探してほしい。

気をつけて見ていると、鉄の格子にも3本線があるし、意外なところでは、木製のドアノブも色の違う木を組み合わせて「さりげなく」、3本線を表現している。

あ、3本線は探す側も「さりげなく」探してほしい。見つけたらからといってニヤニヤしていると、日本人ってなんだか不気味だなあって勘違いされるから。

この章の冒頭の写真にもあるように、このホテルの自慢の1つがゴルフ場だ。1番ホールはセントローレンス川に向かって真っ直ぐ打ち下ろす、素晴らしく景色のいいコース。このホテルに来たら絶対に見逃せないスポットなんだそうだ。

僕?―。実は残念ながら見ることができなかった。僕が泊まった時、あたりは一面、霧に包まれていて、視界は数メートルといったところだった。

「ゴルフの経験があるなら打ってみるかい?」って勧められたけど、なんだかその気になれなくて遠慮しておいた。だって何も見えないんだから。

どこに飛んだのかまるっきり分からないって、上手でも下手でも変わらないわけで、それってゴルフという競技そのものの否定なんじゃないだろうか。

ゴルフの季節もいいけれど、このホテルは冬もまた素晴らしいとのことで、まるで「パラダイス」だとホテルの人が言っていた。

真っ白な雪とイルミネーション。ホテルの前にはアイススケートのリンクが設けられる。眼前に広がるセントローレンス川は、このあたりでは海水と淡水が混じりあっていて氷点下の冬でも完全には凍結しないそうだ。

冬にはケベック・シティからホテルまで、片道5時間のスノー・モービルのトレイルもあるんだそうだ。「今度、冬に来た時にはやってみませんか?」と笑顔で勧められた。

でも、本当は5時間走りっぱなしというのは大変なので、「実はあまりお勧めはしませんけど」とのこと。なんだ、冗談だったのか。

ホテルを拠点に、周囲の豊かな自然と景色を楽しむ2時間や4時間、そして「フル・デイ」というコースもあって、まあ、走ったり止まったり、周囲を眺めたりしながらの4時間コースあたりがちょうどいいんだとか。

ガイドに付いてもらうこともできるし、ヘルメットもウェアも、もちろんスノー・モービルも全部ホテルで貸し出してくれるそうだ。

うなづきながら聞いていたけれど、僕が心の底で密かに「5時間走りっぱなし」に妙に惹かれていたことに関しては誰にも気づかれていないと思う。

オーロラ取材の際に初めて乗って以来、忘れられないんだ、スノー・モービルが。なにせ信号も標識も右折も左折もなくて、とにかく雪原を自由にぶっとばせるというのが最高なんだ。

氷点下のケベックの雪原をスノー・モービルで5時間か―。帰国した後もたっぷり休みをとれる時じゃないと、ちょっとリスクが高いよなあ。

ケベック・シャルルボアしあわせキュイジーヌの旅
  1. 「しあわせ」いっぱいの旅が始まる
  2. 列車はあの滝から出発した
  3. 「しあわせ」なチーズの王国
  4. 可愛いけれど、おいしそう
  5. 緑色のケチャップ
  6. 「シルク・ド・ソレイユ」が舞い降りた
  7. 再び「ワンダケ」へ
  8. 「創始者」がいた店
  9. ハンク鈴木さんに出会った
  10. おいしすぎる島(1)
  11. おいしすぎる島(2)
  12. 冬の誘惑
  13. 続・再び「ワンダケ」へ
  14. 「しあわせ」すぎる夕食
  15. 「しあわせ」な人たちが暮らす場所

著者プロフィール

平間 俊行 (ひらま としゆき)

報道機関で政治・選挙報道に携わる一方、地方勤務時代には地元の祭りなど歴史や文化に触れる取材に力を入れる。現在は編集部門を離れ、別分野の事業を担当しながら度々カナダを訪れ、カナダの新しい魅力を伝え続けている。