ケベック・シャルルボアしあわせキュイジーヌの旅

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「しあわせ」な人たちが暮らす場所

「しあわせ」な列車、ル・マシフ鉄道は真っ暗な闇の中、モンモランシー滝駅に到着した。残念ながら、最後にもう1度、あの因縁の滝を目にすることはできなかった。

しかし、あの滝と僕は、変な形のまま伸びてきつつある足の爪を介して、永遠につながっているような気がしてならない。いつかまた会って決着を付けようじゃないか、モンモランシー滝よ。

シャルルボアは、どこもかしこも「しあわせ」に溢れていた。ベ・サン・ポールもクードル島も、ラ・マルベも。

おしゃれで、おいしくて、気取らなくて、肩の力が抜けていて。それはいい加減ということじゃない。料理ってものは、なんて持論や信念を語ったり、面倒な理屈を振りかざしたりすることは決してない。仏頂面の扱いにくい頑固ジジイにも1人としてお目にかからなかった。

みんなおいしいものが大好きで、楽しそうに料理をつくり、作物を育て、動物たちの世話をしていた。そのあとで屈託なく、家畜を「トランスフォーム」していたりもしていた。

そうだ、「トランスフォーム」って言葉、今回の旅の最大の謎だなあ。シャルルボアではみんな、この言葉を使っていたけれど。

シャルルボアという土地自体が「しあわせ」に包まれていたから、野菜も果物も牛も羊も、卵だって豚だって、みんな「しあわせ」そうな「顔」をしていた。

どのレストランに行ってもあの列車の中でも、みんな「しあわせ」そうに食べていた。たくさん笑っていた。楽しそうな音楽が流れていた。そして、「さち」を通じて「しあわせ」になって、若干、食べ過ぎを気にしてお腹をなででいたりもしていた。

食事なんて楽しければいいじゃないか、なんて無責任なことは決して言わないけれど、楽しくなかったら何のために食べるんだろうってことも、ちょっとだけ言っておきたい。

生命を維持するため?
筋肉を付けるため?
グーグー鳴っているお腹を黙らせるため?
食事の時間になったからただ食べてるだけ?

そういう面があるのは否定しないけれど、ケベック、そしてシャルルボアを訪れて「しあわせキュイジーヌの旅」を経験すれば、もっともっと食べることが、「さち」をいただくということが「しあわせ」なことだって分かるはずだ。せっかく野菜や果物、それに「トランスフォーム」された動物たちの命をいただくんだから、これはもう「しあわせ」にならないと失礼極まりない話なんだ。

豚はフランス語で「コショーン(cochon)」と言うそうだ。フランス語を公用語とするケベックでは、コショーンにたくさん出会う。

同じ面積で早くたくさん育てることができるため、入植時代以来、ケベックでは肉牛よりも豚の飼育が盛んなんだと聞いた。ケベックとは長い付き合いなんだね、コショーン。

ほら、このコショーンだって「しあわせ」そうだ。人の背中に乗っかって一生懸命、僕の方に近寄ろうとしていた。そうそう、余談だけどコショーンってのは本来、太ってないんだよね。

それはともかく、みんながみんな「しあわせ」そうだったシャルルボアで、コイツだけが「しあわせ」なのか判然としなかった。オーストラリアからやってきたエミュー。

ハンク鈴木さんは、エミューの肉はおいしいと言っていた。その脂は化粧品などに利用されている。でも、いくら顔を覗き込んでも「しあわせ」なのかどうか、さっぱり分からなかった。

ここは1つ、お客を歓迎するワンダットみたいに、こう尋ねてみよう。

「Are you in peace?」

「アオウー」って言ってくれよ。僕を見て笑ってくれよ。だって、「しあわせ」いっぱいのシャルルボアにいるんだから。

ケベック・シャルルボアしあわせキュイジーヌの旅
  1. 「しあわせ」いっぱいの旅が始まる
  2. 列車はあの滝から出発した
  3. 「しあわせ」なチーズの王国
  4. 可愛いけれど、おいしそう
  5. 緑色のケチャップ
  6. 「シルク・ド・ソレイユ」が舞い降りた
  7. 再び「ワンダケ」へ
  8. 「創始者」がいた店
  9. ハンク鈴木さんに出会った
  10. おいしすぎる島(1)
  11. おいしすぎる島(2)
  12. 冬の誘惑
  13. 続・再び「ワンダケ」へ
  14. 「しあわせ」すぎる夕食
  15. 「しあわせ」な人たちが暮らす場所

著者プロフィール

平間 俊行 (ひらま としゆき)

報道機関で政治・選挙報道に携わる一方、地方勤務時代には地元の祭りなど歴史や文化に触れる取材に力を入れる。現在は編集部門を離れ、別分野の事業を担当しながら度々カナダを訪れ、カナダの新しい魅力を伝え続けている。