ケベック・シャルルボアしあわせキュイジーヌの旅

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「シルク・ド・ソレイユ」が舞い降りた

セントローレンス川に沿ってル・マシフ鉄道は進んでいく。目指すのはベ・サン・ポール(Baie-Saint-Paul)。シャルルボア・エリアの2つの中心地のうちの1つだ。

途中、車窓からはホワイトギースの営巣地を見ることができる。列車が通りかかるたびに彼らは毎回、一斉に飛び立っているんだろうか。何気なく窓の外を見ていると、やはり事前の情報通り、数え切れないほどのギースが羽ばたくのを見ることができた。

車内での朝食も終わり、ガラス窓から差し込む太陽の光も昼の日差しとなったころ、列車は静かにベ・サン・ポールの駅へと滑り込んだ。

駅はホテルに直結していて、まだ駅の構内かと思っていると、いつのまにかホテルの中を歩いていた。そしてこのホテル、おしゃれで実に現代的なデザインに満ちている。しかも、そこかしこにウィットに富んだ仕掛けが施してあるんだ。

ベ・サン・ポールは農業が盛んな土地で、このホテルが建っている場所にもかつては修道院の農場があったそうだ。だからこのホテルでは、トイレの表示だってこんなふうにおしゃれになってしまう。長靴をはいているのを見逃さないでほしい。

2012年にできたばかりのこのホテルの名前は、「オテル・ラ・フェルメ(Hôtel La Ferme)」。「田舎」と言ったら失礼だけれど、農業主体のベ・サン・ポールにもかかわらず、これほどまでにおしゃれなホテルがある。しかもここに来るまでの行程は、これまたおしゃれなル・マシフ鉄道だ。

実はこのホテルもル・マシフ鉄道も、近くのスキーリゾートも含め、シャルルボアをおしゃれなエリアへと生まれ変わらせたのは、カナダを代表するエンターテイメント集団「シルク・ド・ソレイユ」の創業者の1人、ダニエル・ゴルティエ氏なんだ。

動物がいないサーカス。鍛え上げられた肉体と技術、それにユーモアだけで世界中の人々を魅了し続ける「シルク・ド・ソレイユ」は、同じケベック州でもモントリオールが拠点だ。けれど、その発祥の地は、ここ、シャルルボアなんだ。

団の創設者であり、今も「シルク・ド・ソレイユ」を率いているギー・ラリベルテ氏やゴルティエ氏が若い頃、大道芸を披露していたのがシャルルボア。2人は高い竹馬に乗るような芸をしていたそうだ。ネットで検索してみたら、ギー・ラリベルテ氏はかつて火を吹いていたとも書いてあった。

「シルク・ド・ソレイユ」を離れ、さまざまな事業に携わるようになったゴルティエ氏が、経営が行き詰った「ル・マシフ・ド・シャルルボワ」を買い取ったのが2002年のこと。

ゴルティエ氏の手によって料理が自慢のル・マシフ鉄道が走り、スキー場が生まれ変わり、おしゃれなホテルも建設された。

スパやトレーニング室、会議室に、地元食材を生かしたレストランなどを備えたオテル・ラ・フェルメだけど、なんといっても宿泊客を楽しませてくれるのが建物や部屋のデザインだと思う。

宿泊棟はそれぞれ違うテーマで統一されていて、農家をイメージした部屋には豚のテーブルがあったり、白を基調にした修道院をテーマにした棟もある。

この棟では、廊下の電気の傘が修道女のスカートのひらひらした感じをイメージしている、なんてぐらい、細かなところまで凝ったつくりなんだ。

スキー場はカナディアン・ロッキー以東では最大の標高差で、写真のようにセントローレンス川に向かって滑り降りていくような抜群のロケーションだ。

シャルルボワをもっと魅力的な観光地に生まれ変わらせるため、ゴルティエ氏は住民から意見を募集し、みんなにもこの取り組みに参加してもらうという手法をとったんだそうだ。

みんなで作り上げる新しいシャルルボア。そう言えば、ホテル内を案内してくれた高齢の女性スタッフも、このホテルとこの土地が自慢でならない、という誇らしげな顔をしていた。

子供のころからこのスキー場に通いつめていたというゴルティエ氏。その「恩返し」の気持ちが、住民たちに誇りをもたらし、多くの人々を呼び寄せる吸引力になっているんだろう。

ケベック・シャルルボアしあわせキュイジーヌの旅
  1. 「しあわせ」いっぱいの旅が始まる
  2. 列車はあの滝から出発した
  3. 「しあわせ」なチーズの王国
  4. 可愛いけれど、おいしそう
  5. 緑色のケチャップ
  6. 「シルク・ド・ソレイユ」が舞い降りた
  7. 再び「ワンダケ」へ
  8. 「創始者」がいた店
  9. ハンク鈴木さんに出会った
  10. おいしすぎる島(1)
  11. おいしすぎる島(2)
  12. 冬の誘惑
  13. 続・再び「ワンダケ」へ
  14. 「しあわせ」すぎる夕食
  15. 「しあわせ」な人たちが暮らす場所

著者プロフィール

平間 俊行 (ひらま としゆき)

報道機関で政治・選挙報道に携わる一方、地方勤務時代には地元の祭りなど歴史や文化に触れる取材に力を入れる。現在は編集部門を離れ、別分野の事業を担当しながら度々カナダを訪れ、カナダの新しい魅力を伝え続けている。