ケベック・シャルルボアしあわせキュイジーヌの旅

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再び「ワンダケ」へ

そうそう、ベ・サン・ポールのホテル「オテル・ラ・フェルメ」を紹介したんだから、僕が大好きなケベック・シティの「ワンダケ」の紹介もしておかないと。少しの間、シャルルボアの話からは外れてしまうけれど。

冬にケベックを訪れた際、ビーバー猟の秘密を追って、先住民ワンダット(ヒューロン族)の人たちが営むホテル「ワンダケ」にやってきた。正確に言うと、「オテル・ミュゼ(Hotel Musee)」。しかしその時は、併設の博物館の取材がメインで、泊まるどころか食事もしないままに「ワンダケ」を後にしてしまっていた。

そこで今回、僕はル・マシフ鉄道でシャルルボアへと出発する前、ケベック・シティでの宿泊先に「ワンダケ」を選んだんだ。世界は亀の甲羅の上にあるという伝説を持つ、先住民の人たちが営むホテルだ。

あの時、気温は氷点下で、あたりは雪で覆い尽くされていたけれど、今回は紅葉が素晴らしい季節の訪問だ。ホテルの周辺には遊歩道があって、裏手へと下っていくと紅葉に包まれた岸辺を散策することができた。

部屋はどれも先住民の暮らしをイメージできるデザインで、ベッドの上にはビーバーのクッションも置かれていた。これがビーバーの毛皮かあ、などと思いながら、外側の硬い毛をかき分けて内側の柔らかい毛をなでてみた。こいつが縮絨(しゅくじゅう)するのかあー。なんのことだかさっぱり分からない方は、僕の「謎解きの旅」って原稿を読んでほしい。

例えばこんなライトの傘とか、部屋のあちこちにある、ちょっとしたおしゃれな演出が大好きだ。少し違う角度からケベック・シティでのホテル選びを考えてもいいかと思う。

「ワンダケ」の売りの1つはホテル内のレストラン「ラ・トレイト( La Traite)」での食事。なにしろこのレストラン、ケベックのローカルフード部門で4年連続、ナンバーワンに輝いている。旅行者だけではなく、たくさんの地元の人たちが食事にきたり、大切なお客を接待するのに使う、ケベックでは名の通ったレストランだ。

こう考えると、数々の恵みに感謝しながら食を楽しむ「しあわせキュイジーヌの旅」は、既にケベック・シティで始まっていたのかもしれない。なにしろシャルルボアに行くには、ケベック・シティを起点にするのが素直な行程なんだから。

さて、その「ワンダケ」の夕食。最初に出てきたのは「KWE(クゥエイ)」というトウモロコシを原料としたビールと、これもトウモロコシの粉で作った「バノック」という、パンのようなビスケットのようなもの。

トウモロコシはワンダットにとって非常に重要な食材で、彼らがかつて数家族で共同生活をしていた「ロングハウス」の敷地では、トウモロコシ、豆、カボチャの3種類だけを栽培していた。

彼らはそれを「スリー・シスターズ」と呼んで大切にしていたのだから、「ワンダケ」での料理にもおのずとトウモロコシが登場するんだろう。

ちなみに、かつてのワンダットの食事は、70%がこの「スリー・シスターズ」、10%がベリー類、20%が狩猟で得た魚や動物の肉だったそうだ。

「KWE」は軽い喉ごしのビールで、確かにトウモロコシの香りが漂う。近くの醸造所で作ってもらっているが、そこでも販売はしておらず、「ワンダケ」のレストランに来ないと飲むことができないという貴重なビールだ。

「バノック」は本来、こねたトウモロコシの粉を砂の中で焼いただけで、歯が折れるぐらいに硬い食べ物らしいけれど、「ワンダケ」ではさすがに小麦粉を半分ぐらい混ぜて柔らかくしてある。

確かに、わざわざ日本からケベックまで来て、歯が折れるなんてリスクは負いたくはないし、本当に旅先で歯が折れたらたまったもんじゃない。

そのあと目の前に現れたのは、メープル・シロップのソースで食べるスモークダック。歯ごたえがあってベーコンみたいなダックの食感に、甘すぎない上品なメープルの味が絶妙にマッチしている。

メインは、赤パプリカとウイスキーで作ったソースをたっぷりとかけた鹿肉のグリル。ジビエだなあという風味の一方で、鹿はものすごく柔らかかった。ダックと鹿肉、どちらの料理もケベックらしいし、同時に「ワンダケ」らしい一品だと思う。

どんな祈りが込められているのか、太鼓の演奏がレストラン中に響き続ける中、デザートが登場。

クランベリーソースの上にストロベリーのパイが乗って…説明はさほど必要ないと思う。写真を見てもらえれば、そのボリュームは伝わると思う。本当に満足した。お腹がいっぱいだ。

さて、僕が冬のケベックで宿泊した、雪と氷でできた「アイス・ホテル」は、実は「ワンダケ」から車で5分ほどの距離なんだそうだ。だから「アイス・ホテル」のチャペルで結婚式を挙げた後、「ワンダケ」で披露宴を開くカップルも多いと聞いた。この組み合わせ、相当ユニークだと思う。

どなたか結婚を予定している日本人で挑戦しようというカップルはいないだろうか。あ、その際の宿泊は「アイス・ホテル」ではなく、「ワンダケ」でどうぞ。

室温マイナス4度の「アイス・ホテル」は、新婚の2人が泊まるようなところじゃあないと思う。

ケベック・シャルルボアしあわせキュイジーヌの旅
  1. 「しあわせ」いっぱいの旅が始まる
  2. 列車はあの滝から出発した
  3. 「しあわせ」なチーズの王国
  4. 可愛いけれど、おいしそう
  5. 緑色のケチャップ
  6. 「シルク・ド・ソレイユ」が舞い降りた
  7. 再び「ワンダケ」へ
  8. 「創始者」がいた店
  9. ハンク鈴木さんに出会った
  10. おいしすぎる島(1)
  11. おいしすぎる島(2)
  12. 冬の誘惑
  13. 続・再び「ワンダケ」へ
  14. 「しあわせ」すぎる夕食
  15. 「しあわせ」な人たちが暮らす場所

著者プロフィール

平間 俊行 (ひらま としゆき)

報道機関で政治・選挙報道に携わる一方、地方勤務時代には地元の祭りなど歴史や文化に触れる取材に力を入れる。現在は編集部門を離れ、別分野の事業を担当しながら度々カナダを訪れ、カナダの新しい魅力を伝え続けている。