トラベルエッセイ

カナダの歴史に触れるケベック「謎解きの旅」

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なぜ氷の上で語らうのか=Joie de Vivre(ジョワ・ド・ヴィーヴル)その4=

「Joie de Vivre」(ジョワ・ド・ヴィーヴル=生きる喜び)―。ケベックの人たちには本当にぴったりの言葉だと思う。

僕たち日本人には想像もつかない冬の楽しみ方を見せてもらうために訪れたのは、ケベック市内にある「ジャック・カルティエ・カーリング・クラブ」だ。

平日の夜にもかかわらず、男性も女性も、若い人も高齢の方も、とにかく大勢の人がカーリングを楽しんでいた。

ただし、「平日にもかかわらず」というのが間違いであることはすぐに分かった。僕を出迎えてくれたのは、このクラブの会長のマーコットさん。彼によると、9月から4月まで週7日、クラブに所属する会員が毎日、昼も夜もカーリングを楽しんでいるんだそうだ。

「このクラブには10歳から85歳まで、約300人が所属している。カーリングは一生楽しめるスポーツだ。そして、簡単そうに見えて、すごく大変なスポーツなんだ」

確かに、カーリングでは腰をぐっと落としてストーンを滑らせるけれど、あれは相当な体力とバランスを要求されると思うし、ブラシを激しく動かすのも実はきつそうだ。

そういえばさっき、高齢の会員が杖のようなものの先でストーンを押して滑らせながら、「私は年をとっているから、これなんだよ」とにっこりしていた。大変なスポーツである一方、年をとっても楽しめるようにと、そんな特別ルールがあるんだろう。

そんなふうに、年齢に関係なく楽しめるスポーツだからこそ、みんなが和気あいあいと語らいながらカーリングを楽しんでいる。まるで、おしゃべりもプレーの一部みたいだ。

「ジャック・カルティエ・カーリング・クラブ」の設立は1925年。ケベック市内には同じようなクラブが4つあるそうだ。氷上での会員同士の語らいを見ていると、こうしたカーリングクラブは、地域社会の安心・安全を支える重要な「インフラ」になっているように思えてきた。

「年配の人にとっては、ここに来ることが唯一の活動であり、交流の機会である場合もある。また若い人にとっては先輩たちからチームプレーを学ぶ場となっているんだ」とマーコットさん。

同じエリアの同じクラブに所属していることを通じて、いろいろな世代の人が交流できる場、とういことだ。

会費は年間450ドル。それだけで何回でも利用することができる。

「会費を値上げしなくて済むようスポンサーに出資してもらったり、ここのバーの売り上げをクラブの運営費に当てたりしている。でも政府からは1ドルたりとももらってない」とマーコット氏。それでも「税金ばかり持っていかれる」そうだ。

ところで、そのバーの存在がずっと気になっていたんだ。バーで酒を飲んでる人たちがいるけれど、彼らは何をやっているんだろう。

「もうプレーを終えて飲んでるんだ。ここでは伝統的に、勝った時は試合後に、負けたチームの同じポジションの人を誘って酒を酌み交わすことになっているんだ」

なかなかいい伝統だ。まさに勝ち負けではなく、みんなで冬を、そして人生を楽しもうという素晴らしい伝統なんだと思う。

「相手チームが失敗しても決して笑わないし、コメントもしない。プレーの前後には必ず握手を交わす。カーリングは高い倫理性が求められるスポーツなんだ」。

「紳士的に試合をし、試合後は同じポジション同士、仲良く酒を飲むわけですね」。そんなふうに水を向けてみると、マーコットさん、「飲むのは2杯と決まっている。最初は勝った方が負けた方におごり、次は負けた方がお返しに1杯ごちそうする。まあ、時々、もっとどんどん飲んじゃうこともあるけどね。時々だよ、ハッハッハ」。

子供に大人に、高齢者。みんなが冬のスポーツ、カーリング楽しんでいるケベック。だからこの街は、旅行者にとっても安心して旅を楽しめるのかもしれない。

カナダの歴史に触れるケベック「謎解きの旅」
  1. 「謎解きの旅」が始まった
  2. 最上級の帽子
  3. なぜ氷の滝を登ったのか
  4. 砂糖小屋にて
  5. 冬の Super Star
  6. なぜ氷のホテルに泊まったのか
  7. 陸を進む船 バーチ・バーク・カヌー
  8. ミッシング・リンク
  9. なぜ氷の上で競うのか
  10. 血の色の酒とカーニバルの始まり
  11. ヌーヴェル・フランスの終焉
  12. なぜ氷の上で語らうのか
  13. ハード・インディアン・シュガー
  14. ケベコワの誇り
  15. そして、すべての謎がつながった

著者プロフィール

平間 俊行 (ひらま としゆき)

報道機関で政治・選挙報道に携わる一方、地方勤務時代には地元の祭りなど歴史や文化に触れる取材に力を入れる。現在は編集部門を離れ、別分野の事業を担当しながら度々カナダを訪れ、カナダの新しい魅力を伝え続けている。