トラベルエッセイ

カナダの歴史に触れるケベック「謎解きの旅」

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なぜ氷のホテルに泊まったのか=Joie de Vivre(ジョワ・ド・ヴィーヴル)その2=

雪と氷でできたケベックのアイスホテル

僕はカナダの「謎」ばかりを追っていたわけじゃない。ケベックの楽しさを紹介することも、今回の旅の大きな目的だ。

「Joie de Vivre」(ジョワ・ド・ヴィーヴル=生きる喜び)―。

これはケベックの人たちが大好きな言葉なんだそうだ。さすがフランス系、人生楽しまなくっちゃ、といったところだと思う。

しかしだからといって、雪と氷で作ったホテルで一晩過ごすなんておかしなこと、よくもまあ考えつくもんだなと思う。

あれ?この書き出し、どこかで書いたような。。。気のせいかなあ。

ケベックの近郊、かつては動物園があったという場所に建つのが「オテル・ドゥ・グラース」。通称アイスホテルだ。秋田の「かまくら」をつなげて集合住宅をつくったとでも言えばいいんだろうか。

「かまくら」との大きな違いは、アイスホテルにはこたつどころかまったく火の気がないということだ。ホテルの受付も氷、デスクの上の電話もイスも、何から何まで雪と氷で作られている。

またホテルの中にはバーや結婚式を挙げられるチャペル、滑り台、そしてたくさんの寝室があって、昼間は各寝室とも自由に見ることができる。夜だけ、宿泊者が専有するという仕組みだ。

寝室はそれぞれのテーマに沿った壁画みたいなものが雪の壁に掘られている。これはマヤ文明がテーマらしい。たぶんこの部屋じゃあ、眠れない。

イースター島のモヤイ像に囲まれている部屋とか、エジプトをイメージした部屋とかいろいろあった。

ただし、こういう装飾のある部屋は宿泊料が若干お高めで、普通料金の寝室は何も装飾がない。

まあ、マヤ文明の神様か何かににらまれているのも落ち着かないけど、なにもない真っ白な壁、というのも独房みたいで寂しい感じがする。

僕は日本を出発する前、インターネットでいろいろとアイスホテルについて調べたけれど、宿泊に関しては分からないことばかりだった。

例えば、スーツケースはどこに置くのかとか、そもそもトイレや風呂、歯磨きなんかはどうするんだとか、細かい話で恐縮だけど、深夜に鼻がぐずぐずし始めたら、部屋にはティッシュは常備されているのか、などなど。

「ホテル」というからには、このあたりは本来、大事なことだと思うんだけど、全然情報がなかったんだ。でも、現地に到着して安心した。ちゃんと別棟があって、スーツケースはそこのロッカーに預けるシステムだし、シャワーがあって脱衣所で歯も磨ける。

ソファーが2セットぐらいあるロビーみたいなスペースは、たぶん、自分の寝室で眠れなかった人が深夜に逃げ込んでくるためでもあるんだろう。

屋外にはスパ&サウナが4つあって、氷点下の中で温かい風呂が楽しめる。ただし、別棟との行き帰りはサンダル履きで水着の上にバスローブ、という感じだから相当寒いし、特に出た後は湯冷めすること必至。なんたって氷点下が当たり前なんだから、これはもう、パスすることに決めた。

さて、勇気ある宿泊者たちには事前にレクチャーが行われる。部屋はマイナス4度に保たれている一方で、この寝袋はマイナス40度まで耐えられるから大丈夫、というのが説明のポイント。

これが僕の寝室だ。ケベックの歴史が壁画として描かれているというんだけれど、あまり見る余裕もない。問題は氷のベッドの上に毛皮1枚、それに寝袋という装備で果たして寝られるのかという、その一点だ。

レクチャーでは、寝袋の中に隙間があると温度が下がるので、ダウンなどの上着を足元に詰めるように言われた。

言われた通りにして寝袋の中へと入り、内側から隙間ができないように首もとをきっちりとしめる。顔だけ出ている状態だけど、これって顔を冷蔵庫に突っ込んでるようなもんじゃないのか。

この状態で眠れなかったら、本当に地獄をみるなあ。


◇◇◇

いやあ、よく寝た。午前6時までぐっすりだ。時差ボケも一気に解消した感じ。人間、寝るしかないとなると、寝られるもんだ。せっかくだから、早朝からスパ&サウナにも行ってみた。暖かくて気持ちがいい。外気が氷点下とは思えない。

さて、お湯から出た瞬間にふと思った。そうだ、ここからが大変なんだ。体が濡れているので、うまくバスローブに袖が通らず、ひっかかってしまう。中途半端に半分ほど着たまま急いで湯船の蓋をしめようとするんだけど、重たくてこれがなかなかうまくいかない。

そうこうしているうちに濡れた体からどんどん体温が奪われていく。そうだよ、だからスパ&サウナはパスする予定だったじゃないか。我ながら迂闊すぎる。

よく考えて行動すること。これがきょうの反省点だ。

オテル・ドゥ・グラース/アイスホテル(Hotel de Glace) ケベック・シティ郊外に冬季限定でオープンする氷と雪で作られたホテル。壁も家具も全て氷で作られており、他にはない幻想的な雰囲気を味わえます。毎年新たなデザインで作られるため、同じホテルは一度しか見ることができません。

カナダの歴史に触れるケベック「謎解きの旅」
  1. 「謎解きの旅」が始まった
  2. 最上級の帽子
  3. なぜ氷の滝を登ったのか
  4. 砂糖小屋にて
  5. 冬の Super Star
  6. なぜ氷のホテルに泊まったのか
  7. 陸を進む船 バーチ・バーク・カヌー
  8. ミッシング・リンク
  9. なぜ氷の上で競うのか
  10. 血の色の酒とカーニバルの始まり
  11. ヌーヴェル・フランスの終焉
  12. なぜ氷の上で語らうのか
  13. ハード・インディアン・シュガー
  14. ケベコワの誇り
  15. そして、すべての謎がつながった

著者プロフィール

平間 俊行 (ひらま としゆき)

報道機関で政治・選挙報道に携わる一方、地方勤務時代には地元の祭りなど歴史や文化に触れる取材に力を入れる。現在は編集部門を離れ、別分野の事業を担当しながら度々カナダを訪れ、カナダの新しい魅力を伝え続けている。